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ソフトウェア品質を“理解”できる「テストエンジニア育成」への軌跡─。IVECとSQuBOKから見えた、必要な知識とスキルとは

優秀なテストエンジニアに求められるものとは何でしょうか。それは、「ソフトウェアの“品質”を理解し、さまざまな現場の問題に“応用力”を発揮して対処できる『知識』と『スキル』」です。これは、テストエンジニアが開発の将来を担う人材として成長するために、欠かせない条件ともいえるでしょう。

株式会社ヴェス(以下、ヴェス)は、IT関連製品を中心としたソフトウェアの品質を評価する「第三者検証」の専門会社として、長く人材教育に携わってきました。本コラムでは、当社が辿った試行錯誤の軌跡を通して、ソフトウェア開発におけるテストエンジニアの役割について考えてみたいと思います。

試行錯誤の末に辿り着いた、テストエンジニア育成の独自ノウハウ─開発コスト削減に寄与

レディーステスターという人材教育

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ヴェスは、ソフトウェア開発におけるテスト計画・設計・実行・分析といった「第三者検証」を事業の柱としつつ、機能不具合の発見からユーザビリティ検証まで、ソフトウェア品質に係わるさまざまなサービスを展開しています。
テスト工程は、ソフトウェアの品質向上に大きな影響をおよぼしますが、どうしてもコストがかかります。しかし企業の本音としては、「できるだけ開発コストを抑えたい」。そこに着目した当社は、企業の持続的な開発コスト削減に貢献できる検証サービスとして「レディーステスター検証サービス」という女性専門の人材サービスを提供しています。

これは第三者検証業務のうちもっとも人手と時間を要する「テスト実行」と「不具合報告」について、この業務を担える一人前の人材を当社で育成し、開発現場へ送り出すものです。女性ならではの繊細かつ緻密な作業が、製品の信頼性を左右するテスト工程において大きな力を発揮しています。

幸いなことに、レディーステスターの実績については多くの現場で高評価をいただいておりますが、当社にも最初から人材教育のノウハウがあったわけではありません。「まずは何を教育すれば?」からスタートし、テストエンジニアに必要な知識と実務に関する情報を収集して、試行錯誤の末に教育プログラムやテキストを作成。積み重ねた実績を“本には書かれていないノウハウの塊”として結実させてきました。

こうして教育プログラムが完成の域に達したのを機に、当社は企業向けの「テストエンジニア育成支援サービス」を開始しました。多くのテストエンジニアの知識やスキルは、いまだ現場OJTの延長線上での経験に頼っています。しかし現場によって身に付く知識やスキルはバラバラで、また基礎や理論の後ろ盾がなければ応用力が伴わず、他の現場で通用しない可能性もあります。企業が抱える人材教育の問題点を解消するために、当社のテストエンジニア教育のノウハウは、大きく貢献できると考えています。

実践型の「IVEC」シラバスだけでは“何か”が足りない・・・?

ヴェスの教育に足りない「何か」

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こうしたヴェスの教育には、(社)IT検証産業協会(IVIA)のテスト技術者養成のための“シラバス”という考え方が強く盛り込まれています。このシラバスは「IVEC」という認定試験のベースとなっているもので、テスト工程と役割をキャリアレベルとして切り分け、キャリアレベルに必要なスキルが定義されています。
レディーステスターが行っていた“テスト実行”と“不具合報告”は、「IVEC」におけるレベル1に相当します。企業向けに教育を提供していくためには教育内容もレベル2、3、4へと高めていく必要があり、当社は「IVEC」シラバスのキャリアレベルに合わせて教育サービスの幅を拡げてきました。

そして教育の範囲は徐々に広がり、実績も積み重ねてきましたが、ある時、我々は“まだ何かが足りない”ことに気付きました。きっかけは、とあるテストベンダからの依頼で実施した在職社員向け教育でした。
「自社の人材を新人から管理者レベルに至るまで体系的に教育したい」という要望から、継続・長期的な教育を考えた我々は、ヴェスの教育に足りない要素にぶつかったのです。それは、テストエンジニアが「新人から管理職へとキャリアアップしていく」という考え方でした。

さらにこのテストベンダからは、ソフトウェアテストの原理原則となる“ソフトウェア品質”についてきちんと教育すべき、との要望が寄せられました。また、社員教育を検討する担当者や決裁者にサービス内容を伝わりやすくした方がいい、との指摘も受けました。伝わりやすさを考えれば、すでに一般的となっている規格や体系にリンクさせることがもっとも確実な方法です。そこで、ソフトウェアの品質向上における知識体系をまとめた「SQuBOK」を教育のベースに加える案が浮上しました。

「SQuBOK」から抽出した、“品質への理解”の重要性─

IVECとSQuBOKの差異の明確化

IVECとSQuBOKの差異の明確化[拡大

この取り組みに当たっては、まず「IVEC」と「SQuBOK」を比較し、2つの差異を明らかにする作業から始めました。当社のベテランエンジニアが一緒になり、連日「SQuBOK」を片手に各項目を確認し、テストに必要な項目を抽出する取り組みを続けました。その際に利用したのは、3つの「SQuBOK樹形図」─ソフトウェア品質の基本概念、品質マネジメント、品質技術─です。その中の必要なものをマーカーで色づけし、整理する作業を続けました。そして抽出したものを「IVEC」シラバスとすり合わせ、ターゲットをあぶり出したのです。

その結果分かったことは、「IVEC」はテスト工程については詳細で実践的な内容ですが、ソフトウェア品質の原理原則にあたる知識やスキルの部分は暗黙知になっている点でした。つまり、「IVEC」シラバスだけでは“品質”が何者であるかを知ることができず、さらに知らなければならないことにも気付かない可能性があったわけです。

我々が感じていた、“足りない何か”とはこのことでした。“品質”という言葉は折に触れて使われていますが、果たしてどれだけの人間が本当に“品質”のことを分かっているのでしょう・・・。

「問題を理解し、自ら考える」─企業の将来を担うテストエンジニア育成へ

こうして見えてきた、「IVEC」に足りない「SQuBOK」の内容について、さらに取捨選択や検討・分類を繰り返した上で、“ソフトウェア品質の原理・原則”を中心テーマとする新しい教育プログラムを作成しました。これは、技術をソフトウェアテストの実務に「活かせる」、「応用できる」ようになるための基礎知識の取得を中心とするものです。

ようやく教育すべきことが明確となりました。しかし、知識を身につけるだけではまだ不十分です。そこで、研修生が自分自身で考え、自分の考えを表現し、さらにこれらのコミュニケーションを通じて自分の答を導き出せるよう、グループディスカッションを取り入れるなどの工夫も行いました。重要なのは「自分の知識」を身につけることです。

ソフトウェア検証の土台となる“品質”への理解は、単に目の前の仕事をこなしてきた現場力を、“応用力”へと発展させることにつながります。

“応用力”とは「ソフトウェアテストの役割と意義をより深く理解し、テストエンジニア一人一人が目の前のできごとに対して自ら考え、行動できるようになること」。

個人個人の意識向上は、テストエンジニアを企業の将来を担う人材へと成長させる上で、重要な布石となるはずです。

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