ソフトウェアメーカーA社

新興のITベンチャーであるA社は、パッケージソフトウェア／クラウドアプリケーションの企画・開発に加え、SIerや大手システム会社と連携して、企業独自の業務用アプリケーションの受託開発などを行っています。
近年、基幹系業務をオープン系システムに移行する需要が増えていることもあり、A社の開発期間は急激に短縮路線を辿っていました。通常案件でも3〜6ヵ月、ひどいときには1ヵ月という案件もあり、開発現場は常に時間との戦い。A社にとって、“開発期間短縮”はまさに喫緊の課題といえるものでしたが、一方で品質面とのバランス維持が限界点に達していました。

A社では、設計段階で仕様を固めた後、その仕様をもとに開発工程へ、そして単体／結合テスト工程へと至る従来の開発プロセス（ウォーターフォール型）を採用していました。しかし、受託開発における顧客の要求は流動的で不明確。このプロセスでは開発途中での仕様変更に柔軟に対応することができません。こうなると、そのしわ寄せを多く受けるプログラマは納期までに要求された機能を満たすことに精一杯で、拡張性や保守性、不具合を考慮したチューニングまで頭が回らない状況でした。

また、テスト工程もプログラマが担当するため、テストケースが偏ったり評価が疎かになる、といった課題も生まれていたようです。A社技術・開発部マネージャーのO氏はこう語ります。
「システム実装後やリリース後の不具合発覚が度々発生しており、休日出勤や徹夜残業はもちろん、プロジェクト遅延や修正パッチの増殖など、クレームにつながることもしばしばでした。テスト工程の早急な見直しが必要でした」

限界を感じたA社は、品質向上のために、早期のリスク回避に有効な「段階的開発プロセス（反復型）」の部分的な採用を検討します。しかし、ここで大きな壁となったのが、“開発者個人のノウハウや記憶”に依存した開発体制でした。
「反復型」は、過去の設計・開発・検証ナレッジを生かして利用可能なシステムを段階的にリリースしていき、設計の修正を繰り返していく開発プロセス。ゆえに、全社でナレッジを共有できる仕組みがあれば有効ですが、そうでないとかえって効率を悪化させかねません。

A社では、フレームワークの再利用性を高めるために案件情報の履歴管理こそ義務づけていましたが、統一された管理ツールがなかったため、「設計書」や「仕様書」、「不具合管理」などは、すべて個別の担当者がバラバラにExcelベースで管理していました。そのため、異なる案件は言うに及ばず、同じ案件であっても担当者ごとに無数のファイルが作成され、案件情報は無秩序に増えていく一方。

「案件情報はファイルサーバ上で共有していましたが、形だけというのが実際のところでした。あれだけ大量のExcelファイルですと、過去の情報を参照しようと思っても、嫌気がさしてアクセスしなくなるのも頷けます。結局、自分の作成したファイルしか参照しないようになりますので、いつまでたってもナレッジは共有されず、担当者が辞めてしまえば、その情報は“忘れ去られた遺産”状態でしたね」（前出O氏）

A社ではこうした問題を解決しようと専用の構成管理ツールの導入を検討しましたが、高価な上に操作性が複雑なことから、現場の反対意見を考慮すると、解決策にはなり得ませんでした。

各担当者のナレッジが「みえて」共有できる！

開発・テスト工程の改善に向けて情報収集を続けていた前出O氏らは、ある取引先を通じて偶然、リリースされたばかりの検証ソリューションの情報を得ます。「クラウド型」という画期的な提供方法で、“活きた情報でナレッジを資産化”という特長に強い興味を持ったO氏らは、早速営業担当にコンタクトを取ることに。

担当者より詳細な説明を受けたO氏は、自社の問題解決の糸口となると期待を抱きつつ、まずはその効果を検証するべく当該ソリューション「VTM（Virtual Test Manager）」の評価トライアルを実施しました。
この「VTM」は、標準的なOSSツールをベースに、テスト計画や設計、実行、上流工程の設計・仕様・プログラミング、さらには不具合情報までを一元管理するソリューション。また、クラウド上のテスト支援フレームワークを通し、最適化に向けたテスト工程の改善が支援されます。A社はとある開発中のソフトウェアについて、テストプロセスを当該ツールに移行し、検証を開始することに。

ナレッジ共有はA社の開発現場における大きな課題でしたが、「VTM」は開発工程におけるあらゆる情報をIDで紐付け管理できるため、ナレッジのデータベース化が可能でした。プログラミング工程を統括する技術・開発部リーダーのY氏はこう感想を述べています。

「従来は、膨大な数にのぼるExcelファイルの所在を把握するだけでも困難でしたが、仕様書や不具合報告書／改善報告書などがすべて紐付き、見たい情報がいつでも簡単に見れたのには驚きました。今回は1案件のみの試験運用でしたが、過去のあらゆる案件情報をすべて紐付けできれば、ナレッジ共有が相当スムーズになり、作業効率が大きく向上すると期待できました」

“第三者検証”ならではのノウハウが手に入る！

また、もう一つ大きな課題であった「テスト工程の見直し」という面でも、「VTM」は大いに役立ったようです。O氏らは、クラウド上に展開されたテスト支援フレームワークを通し、自社のテストプロセスを検証してみることにしました。

「提供されたフレームワークには、第三者検証専門会社ならではのノウハウが凝縮されており、自社のテストプロセスを見直すきっかけになりました。当社はテスト設計も開発者が兼任していたため、テストケースに偏りが出たり、評価がどうしても甘くなってしまう欠点がありましたが、テスト設計・実行、バグ修正のアドバイスなど、プロフェッショナルの目を通した支援をオフサイトで行っていただくことで、品質向上やプログラマの負担軽減につながると期待できました」（前出O氏）

こうした検証を経て、その効果を実感したA社は「VTM」の本導入を決断します。その費用対効果は予想以上に大きなものでした。

「いくら品質向上のためとはいえ、テストエンジニアによる上流からの見直しを委託するとなるとコスト面で敷居が高かったのですが、テスト設計と実行は今まで通り自社で行い、オフサイトで設計へのアドバイスとバグトラッキングの運用、その分析のみを切り分けて委託することで、想定コストを大きく抑えることができました。ツール自体も一般的な構成管理ツールと異なり、専用サーバ設置やシステム構築が不要なため、非常に安価かつ短期間で導入可能だった点も意思決定を大きく後押ししたと思います」（O氏）

こうしてA社では、稼働中のすべての案件について「VTM」上での一元管理を実施。顧客からの突然の仕様変更や、想定外の不具合が発生した際も、過去の類似案件から対処法を参照することで、開発工程の大幅なスピードアップに成功しました。

また、プロの第三者検証のノウハウ投入によるテスト設計・実行自体の品質改善が図れたことで、そもそもの不具合発生率も飛躍的に減少していると言います。

O氏は今回の取り組みについて、こう総括しています。

「ナレッジ共有とテスト工程の見直し。この大きな2つの課題をクリアできたことで、開発プロセスに反復型を取り入れることが現実的になりました。まだ導入して間もないですが、数ヶ月という短納期要求に対しても、品質を落とすことなく対応することができています。今では、休日出勤や深夜残業はほとんどありません」